(書 名) | 基盤としての情動 |
(副 題) | ― フラクタル感情論理の構想 ― |
(著 者) | ルック・チオンピ |
(訳 者) | 山岸洋・野間俊一・菅原圭悟・松本雅彦 |
『感情論理』の発表から20余年、さらなる円熟をきわめ、21世紀における新たな心的モデルの試論として結実した決定版。 「思考および行動に対する情動の作用」を徹底的に解明する。 |
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2005. 7. 学樹書院 ISBN4-906502-29-6 C3011 A5判/432頁/税込定価¥5250(本体¥5000) |
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目次 | 本書について | 著者について | 書評・その他 |
目 次 日本の読者の方々へのメッセージ /謝辞/この本について/日本語版への序 第1部:理論的基盤 第1章:認識論的な出発点――不可避的に制約されている地平 「不可避的に制約されている地平」というイメージ ポストモダンの哲学と科学論における多元性 世界はまるっきりの「つくりもの(構成されたもの)」か? ラディカル構成主義 vs 相対的構成主義 「現実の感受装置(センサー)」としての人間 地平の個人的制約 結論として導き出されるパラドックス――不確実性の中の相対的確実性 第2章:感情論理の基本概念.その根本公理,生物学的基盤,定義,現象について 統合された機能的「感覚・思考・行動」プログラム――心の礎石 感情論理の生物学的基盤 感情,感触,情動,気分とは何か? 定義の混乱とその解消 認知という概念について 論理という概念について 感情にはどのようなものがあるか? いくつかの基本感情と無限のヴァリエイション 欲動と本能,動機と意志,価値体系と価値観 心理的,社会的,生物学的な各現象領域の間の相互的構造的カップリングについて 第3章:認知機能の基本的オペレイターとしての感情 思考に対する感情のオペレイター作用――組織化と統合 感情特異的な「思考・論理」の形式 筋の通った思考がもたらす快感 認識は苦悩に由来する 抽象化もまた快感を伴う 暫定的総括 ―― 一つの基本法則,五つの基本感情,そして無数の認知調整機能 感情論理の視点から見た意識と無意識 感情のオペレイター作用は,神経生理学的な「刷り込み」を基盤としているのか? 第4章:フラクタル感情論理――心のカオス論的理解 キー・コンセプトとしての「決定論的カオス」について 非線形的相転移,分岐,散逸構造 初期条件に対する敏感性――いわゆるバタフライ効果 アトラクターとリパルサー,あるいはエネルギー低地とエネルギー高地について 決定論的カオスの特徴を持つシステムに見られる自己相似性あるいはフラクタル性 心のカオス論的・感情論理的モデル いくつかの方法論的問題 システムとしての心が持つフラクタル性のさまざまな側面 まとめと相対化.フラクタル感情論理は新しい心理学および精神病理学の基盤となれるか? 第2部:フラクタル感情論理の諸相.さまざまな例 第5章:感情・認知「レール」と感情・認知「固有世界」の発生について 不安と不安論理 怒りと怒り論理 悲しみと悲しみ論理 喜び,快感論理,愛情論理 関心論理,日常論理,学術論理 第6章:精神病理学――病的な感情認知的「狂い」について 決して「ノー」と言えなかった男 依存症,あるいは「心の癌」――感情認知的「狂い」のもう一つのかたち 解離性障害,多重人格 精神病状態の際の感覚および思考の跳躍的「狂い」 統合失調症もまた「感情病」の一つか? まとめと展望――精神病理学において感情の果たす重要な役割について 第7章:集団のフラクタル感情論理 社会空間における「エネルギー供給および組織化」の主体としての感情 感情的コミュニケイション,情動の伝染と支配 集合的記憶の開閉を通じて連続性をつくりだすものとしての感情 狂い血迷った集団――その「感情・認知」 小規模または大規模な社会空間における非線形的相転移および「バタフライ効果」 まとめ――フラクタル感情論理の構想の正しさと,創発の問題についての新たな理解 第3部:理論面および実践面への帰結 第8章:他の構想との理論的な関連および相違 精神分析,発生的認識論,一般システム論 神経生物学,情動研究,進化論的認識論,生物学的基盤を持つ構成主義 精神病理学,構造力動論,現象学,時間体験 まとめ――フラクタル感情論理が新たにもたらすものは何か? 第9章:応用へ向けて――可能性とリスク 精神医学と精神療法への応用 フラクタル感情論理と身体体験,身体療法,および類似の治療実践 日常的実践への示唆 不安,リスク,希望 第10章:フラクタル感情論理の人間像,そしてそこから導き出される倫理的帰結について ――あるいは,「感情とともに思考する」こと 感情論理の視点から見た意識の問題 意志の自由と思想の自由,責任 フラクタル感情論理の世界像および人間像について 何を行い,どこを目指すのか?――水の比喩
文献表
人名索引
事項索引
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本書について(カバー宣伝文) ■著者/訳者について ルック・チオンピ Luc Ciompi 1929年イタリアに生まれる.1963年よりローザンヌ大学病院社会精神医学部門の発展に貢献するとともに,ローザンヌ研究と呼ばれる有名な統合失調症長期予後調査を遂行した.1977年から1994年までベルン大学社会精神医学教室主任教授.1982年出版の『感情論理』により科学基礎論や構造主義を駆使した多元的な人間論を展開する精神病理学者として各界からの注目を集めた.1984年,先端研究プロジェクトとして統合失調症患者の治療のための共同生活施設「ソテリア・ベルン」を創設した.ベルン大学退官の後,ウィーン近くのアルテンベルクにあるコンラート・ローレンツ(進化・認知)研究所に客員教授として招かれ本書『基盤としての情動』を執筆した.これにより,感情論理の構想は,精神病理学の領域を超えて,相対的構成主義,神経科学,システム論,カオス論を支柱とする大規模な思想体系へと発展している.主著:Affektlogik. Ueber die Struktur der Psyche und ihre Entwicklung. Ein Beitrag zur Schizophrenieforschung. Kleta-Cotta, Stuttgart, 1982(邦訳 松本・菅原・井上訳:感情論理.学樹書院,1994); The psyche and schizophrenia. The bound between affect and logic. Harvard University Press, Cambridge/Mass.(USA) and London (GB), 1988; Aussenwelt - Innenwelt. Die Entstehung von Zeit, Raum und psychischen Strukturen. Vandenhoeck & Ruprecht, Goettingen, 1988.ほか. (訳者紹介) 山岸 洋 (やまぎし・ひろし) 1958年生まれ.1984年京都大学医学部卒業.現在,財団法人田附興風会医学研究所北野病院神経精神科部長,京都大学医学部附属病院臨床教授(精神医学).著訳書:『中世の医学』,『中世の患者』(以上共訳,H.シッパーゲス著,人文書院),『精神医学群像』(共著,藤縄ほか編,アカデミア出版会),『脳――回路網のなかの精神』(共訳,M.シュピッツァー著,新曜社),『妄想とパースペクティヴ性――認識の監獄』(共訳,W.ブランケンブルク編,学樹書院)など. 野間俊一 (のま・しゅんいち) 1965年生まれ.1990年京都大学医学部卒業.現在,京都大学医学部附属病院精神科神経科勤務.著訳書:『エスとの対話――心身の無意識と癒し』(新曜社),『ふつうに食べたい――拒食・過食のこころとからだ』(昭和堂),『妄想とパースペクティヴ性――認識の監獄』(共訳,W.ブランケンブルク編,学樹書院)など. 菅原圭悟 (すがわら・けいご) 1957年生まれ.1984年京都大学医学部卒業.京都医療少年院勤務を経て,現在,天理よろづ相談所病院精神神経科部長.著訳書:『自閉症の治療』(共訳,ハウリン&ラター著,ルガール社),『感情論理』(共訳,L.チオンピ著,学樹書院),『逆転移(2)』(共訳,H.F.サールズ著,みすず書房)など. 松本雅彦 (まつもと・まさひこ) 1937年生まれ.1964年京都大学医学部卒業.京都大学医療技術短期大学部教授,京都府立洛南病院院長を経て,現在,京都光華女子大学人間関係学部教授.著訳書:『心理学的医学』(訳,P.ジャネ著,みすず書房),『精神病理学とは何だろうか』(星和書店),『感情論理』(共訳,L.チオンピ著,学樹書院),『逆転移(全3巻)』(共訳,H.F.サールズ著,みすず書房),『こころのありか――分裂病の精神病理』(日本評論社)など. |
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未決の大問題に挑む構想 河本英夫(東洋大学教授、科学論) 本書は、チオンピの集大成の著作である。認知と感情との関連を、感情を基礎にしながら論じるもので、本当に決着がつくのかと思えるような大問題を扱っている。精神医学にとどまらず、発達、学習、治療、文化形成にかかわるすべてのものにとって、一度検討しておかなければならない充実した構想になっている。認知や思考にとって、感情や身体が決定的な影響をもつことは、常識的にも認められるし、ダマシオが繰り返し強調してくれたおかげで、身近なものになっている。だが問題は、この栄養といわれるものの内実である。・・・・・チオンピは、認知の組織化や形成そのもに感情が密接に関与しているという。そのことを科学的に証明するために、先端の経験科学のモデルを採用する。それがフラクタル理論であり、カオス理論である。さまざまな心の動きのレベルで、認知・感情・照合システムがかたちを少しずつ変えながら繰り返し現れるのが、フラクタルと呼ばれる部分である。また喜び、怒り、不安のような感情のそれぞれが固有の領域化をおこなう場面がアトラクター形成であり、アトラクターが一挙に壊されるさいには、臨界条件とそこからの越境が前景に出る。これらを扱うのがカオス理論である。・・・・・本書の訳で、不自然なところはないので、訳者たちは賞賛に値するほど苦労されたことだと思う。 (「読書人」2005.10.14) |
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関連情報 「感情論理」について | ||||||||