第27回日本臨床救急医学会総会でも注目されたRRS

日本蘇生協議会出版部(学樹書院)は本年8月1日付で『RRSで院内急変させない』(野々木・武田・藤谷編)を刊行した。RRS(院内迅速対応システム)は、2022年の診療報酬改定により、急性期充実体制加算の要件となったことから、患者安全マネジメントの面からも医療スタッフの専門的研修の面からも、広く注目されはじめたシステムである。
7月に開催された『第27回日本臨床救急医学会』(大会長:冨岡譲二、鹿児島)でも、重要なトピックスの一つとして位置づけられ、学術集会の併設コースとして同書の著者らによる《RRS 起動要素・対応要素研修コース》が実施される一方、パネルディスカッション《RRS 日本スタイルを確立するー RRT、CCOT の有効な形を提案する》が行われた。このパネルディスカッションでは、施設ごとに方法や基準が一定しない現状のRRSが今後どのように標準化されるべきかといった視点から、各施設が独自に実施してきた取り組みや課題が報告された(座長:川原千香子、森一直) 以下、パネルディスカッションの主な内容を紹介する。 【記事は敬称略】

● 患者や家族の意見も含める

演題 [基調講演] RRSにおける世界の動向(谷井梨美[聖マリアンナ医大])
各施設からの発表に先立ち最初に基調講演《RRSにおける世界の動向》を担当した谷井梨美医師は、RRSの診療報酬の改定がなされて以降このシステムに対する注目が高まったものの、起動件数は必ずしも増えていない現状を報告した。一方、海外では「RRS評価のための質的指標10項目(International Society of Rapid Response Systems(iSRRS))」、Guidelines of Recognizing and Responding to Clinical Deterioration Outside the ICU, SCCMなどが相次いで発表され、また本年4月には英国でMartha’ s ruleの法案が承認された。例えばMartha’ s ruleでは、推奨事項として24/7活動のCCOT(Critical Care Outreach Team)の配置、患者や家族からのCCOTへのアクセス、患者や家族からの情報を得るシステム、といった新たな展開も認められるようになった。これらの動きに呼応して、国内でもEWSの導入や患者家族の参画などの動きが活発化しつつあることが報告された。

● RRS研修コースの充実が実績を上げる

演題 RRS起動要素研修コースの実施により院内のRRS・CCOを充実させる取り組み(鹿瀬陽一[慈恵医大]他
『RRSで院内急変させない』の著者の一人でもある発表者は、RRSの体制を維持し定着させるためにはRRS教育コースの実施が不可欠であるとの立場から、慈恵医大でRRSの導入とほぼ同時に開始したRRS教育コースの実際とその効果について報告した。コースの内容はUPMC(ピッツバーグ大学)のFirst 5 Minutesを本邦向けに改変したものが用いられる。同施設におけるRRSは看護師主体のRRT+CCOTであり、日勤帯は専門看護師・認定看護師に割り振り、夜勤帯は夜間の責任当直看護師に割り振られている。2013年以降、10年以上にわたるRRS教育コースを実施してきた実績により、RRSへの院内の理解は深まってきたが、起動件数はまだ十分とはいえないことから、CCOT(Critical Care Outreach Team) の意義や活動の充実化を含め、早期警戒スコアの使用法を重視した研修を実施している。CCOTの導入により RRSの介入件数は増加が認められると考えられる。なお、RRS起動要素研修コースについての詳細は「愛宕救急医療研究会」のサイトにて公開中である。

●病棟ラウンドから開始した RRS

演題 病棟ラウンドから開始したRRS(分造健太[愛知医科大学病院])
比較的歴史が浅い愛知医科大学病院の現状が報告された。同施設では2019年3月より RRSの準備を開始し、まずはRRS準備委員会を設立することから始まった。RRSの対応要素は看護師主導の RRT/CCOTとした。RRSを円滑に導入し、開始後は問題点を明確にするため、当初は1つの病棟から運用開始し、開始1か月後に検討会を開き、そこで明らかになった課題の改善に取り組みながら、段階的に病棟拡大した結果、2020年10月より小児科を除く全病棟を対象とするまでに至った。この施設のCCOTは懸念のある患者の有無にかかわらず訪床する方針を取っているという。RRSの開始から CCOTとしては毎年250件前後の介入があり、 RRTは2020年には24件であったが2023年には221件まで増加した。CCOTの継続によってRRSが浸透したためと考えられる。調査の結果から、看護師主導の RRSの有用性が示唆されたことが報告された。

●「発令したら主治医に非難されてしまった!?」

演題 「RRTとして心がけていること」~現場のスタッフと共に実践する~(古沢身佳子[慈恵医大病院]他)
慈恵医大病院がRRSを導入した2013年以来、RRSコールに対応してRRT看護師が現場で直面してきた問題への対応が発表された。RRT看護師であれば誰もが日常的に遭遇していることでも、病棟や外来の看護師にとってはクリティカルな状態は非日常的であることが多く、そうした場面では心理的に危機的な状況に陥りやすい。RRTはそうした看護師の心情を理解して行動することが大切であるという。そのためにもまず、コールを発令したことで非難されたり否定されたりすることがないようにすることが鉄則である。たとえば、主治医チームから、「なぜRRSが発令されているのか、自分は何も報告を受けていない・・・」などと苛立った様子で声をかけられると、病棟看護師は返す言葉を失ってしまい、「RRSを発令したら主治医に非難されてしまった」という思いだけが残ってしまうことがある。この発表では「RRSを組織の風土として定着させ、患者中心の医療をチームで提供する」ことが重要であることが強調された。

●CCOTラウンドの開始で、METのみでは要請とならなかった患者に

演題 「CCOTを中心とした RRS」CCOTを中心としたRRS(中島舞[嬉野医療センター]他)
嬉野医療センターでは、2011年からRRSを導入しており、要請時は基本的にMETが現場に同行する。2015年には早期警戒スコア(NEWS)をスクリーニングツールとして、2019年には院内トリアージのツールとしても活用するようになった。また、同年9月からはCCOTが開始され、CCOTラウンドでは NEWS高得点者だけでなく、懸念がある患者の聞き取りや観察も実施している。CCOTラウンド後に関連部門と情報共有ができたのは、2023年度で210件、月平均では約18件であった。MET要請件数は2022年度が63件、2023年度76件であった。院内心肺停止症例数は2022年度18件、2023年度10件と、MET要請件数の上昇とともに院内心肺停止症例件数の減少が認められた。RRSの活動としての CCOTラウンドを開始したことによって、METのみでは要請とならなかった患者への対応が可能となった。

●CCNR・RRT・METの連携により、多方面からのフォローを

演題 RRS成功のための工夫(持田麻矢[聖マリアンナ医科大学]他)
聖マリアンナ医科大学病院では、1999年以降、critical care nurse round(CCNR)を実施し、毎日全病棟のラウンドを行ってきた。CCNRの対象は、NEWSの高リスク・中リスクに該当するなど、病棟で懸念を生じている患者である。ラウンド時には、リーダー看護師・受け持ち看護師がともにアセスメントを行うことで状態変化の可能性を共有する。2019年より診療看護師(NP)によるRRT回診がスタートし、2023年以降は自動計算スコアVisensia (Visensia Safty Index(VSI)を用いての治療的介入も行っている。CCNR・RRT・METの連携により、多方面からのフォローを可能とする体制を整えている。さらに、院内急変対応システムが有効に起動されるためには、患者の異変を早期に把握し、適切なタイミングでCCNRへ相談してもらうことやRRSを起動できる体制づくりも大切である。これらの取り組みの実践のために、同施設ではフィジカルアセスメント研修、臨床判断能力向上研修も実施中である。