日本精神神経学会「性同一性障害や性的指向・性自認に係る、児童生徒に対するきめ細やかな対応等の実施について」に関する要望書を《性同一性障害に関する委員会》委員長(太田順一郎)名で提出
日本精神神経学会では7月15日付で『性同一性障害や性的指向・性自認に係る、児童生徒に対するきめ細やかな対応等の実施について」に関する要望』を発出し、文部科学省へ提出した。本件は、文部科学省が通知している「性同一性障害や性的指向・性自認に係る、児童生徒に対するきめ細やかな対応等の実施について」の中にアウティング(=当事者ご本人の了解を得ることなく、ご本人の気持ちを周囲に話すこと)の危険性について追記して欲しいことを要請した要望書。【《性同一性障害に関する委員会》委員長(太田順一郎)】
我が国における性別違和を持つ子ども達の現状として、平成 26 年の文部科学省の調査では約 600 人の児童・生徒が性別違和を学校に表明していると報告されました。現在では小学校就学前や小学生、中学生の子ども達が性別違和を主訴にジェンダークリニックを受診するようになっています。また、文部科学省は平成 27 年に「性同一性障害や性的指向・性自認に係る、児童生徒に対するきめ細やかな対応等の実施について」を通知したことから、学校でも子ども達の希望に添うような積極的な対応を考慮していただいています。
ほとんどの子ども達は自分の自認する性別として扱ってもらいたいという希望を持っており、それは服装やトイレ、着替えや体育の授業など様々な場面で具体的な希望として現れています。性別違和を持つ子ども達はそれまで扱われてきた性別とは反対の性別として扱って欲しいという気持ちを持っており、そのためには周囲の理解が必要になってきます。学校の先生方に理解してもらうことも重要ですが、同級生などの学校に在籍している児童・生徒の理解も必要となります。周囲の児童・生徒の理解がなければいじめの問題などが出現する可能性もあります。文部科学省も「いじめ防止対策推進法」に基づく基本方針の中に性同一性障害や性的指向・性自認に関するいじめについて特に配慮が必要と指摘しています。
最近、われわれジェンダークリニックの医療従事者は、当事者の児童・生徒やその親から学校側から「他の児童・生徒に対して当事者の子どもが持っている気持ちを説明しないと受け入れることができないと言われている」という訴えを聞くことが増えてきました。学校側から要望されると、同意しないと受け入れてもらえないと誘導されて同意することもあると考えられます。学校側としては周囲の児童・生徒に理解してもらわないと、安全に受け入れることが難しいと考えるのは十分理解できるのですが、当事者ご本人の了解を得ることなく、ご本人の気持ちを周囲に話すことを「アウティング」と言います。自分のことを周囲に打ち明けるにはカミングアウトしたときに、打ち明けた相手と話し合う準備ができている必要があります。アウティングは準備ができていない状態で自分のことが周囲に知られることになりますので原則的にしてはいけないこととされています。学校側が学校での出来事を全て把握してコントロールすることは不可能だと思いますので、ご本人が了解していない状態でアウティングして、その結果いじめなどの問題が起これば非常に対応が困難な状況に陥ってしまう可能性があります。自分の気持ちを周囲にカミングアウトするのはあくまでも自分の意志で行うものですから、周囲の子ども達に対してどのように説明していくのかについては当事者ご本人の意志を尊重して、慎重に進めていく必要があると思います。
このアウティングの問題は非常に重要だと考えられますので、「性同一性障害や性的指向・性自認に係る、児童生徒に対するきめ細やかな対応等の実施について」の中にアウティングの危険性について追記していただきたくお願い申し上げます。