書 名 ピアノ・レッスン
著 者 ジェーン・カンピオン/ケイト・プリンジャー
翻 訳 中里京子

数々の映画賞を受賞した同名映画の
監督自身による小説バージョン。
映画では描ききれなかった登場人物たちの過去の秘密、意外なエピソードが明らかに。

2001. 8   学樹書院

ISBN4-906502-04-0 C0097

四六/上製/272頁/定価2310円(本体2200円)

  目次 本書について 著者について
あの浜辺のピアノ
きっと取り戻してみせる

映画をしのぐ衝撃と感動を

目 次 

プロローグ    

第1章−第11章  

エピローグ
訳者あとがき


本書について
本書は、映画『ピアノ・レッスン』の上映後に、脚本/監督を手鮒けたジューン・カンピオンとロンドン在住の作家ケイト・プリンジャーが共同執筆した小説の全訳である。
 同映画は一九九三年度カンヌ映画祭パルムドール大賞、一九九四年度アカデミー賞の主演女優賞、助演女優賞、オリジナル脚本貰の授賞をはじめ、数多くの名誉ある賞に輝いた作品としても話題を呼んだ映画である。カンピオンは映画の封切りと同時に脚本を出版しているので、本書を含めると、『ピアノ・レッスン』 には三つのバージョンがあることになる。しかし、昨今流行りの映画のノベライゼーションというよりも、同一人物がオリジナルの構想を発展させていった結果、最終的に小説という形で物語が結実したと考えるべきであろう。
 本書は、十七カ国語めの翻訳に当たる。小説では、伏線が至るところに張り巡らされ、映画では描かれていなかった「謎」の部分、すなわち登場人物の過去の歴史がフラッシュバックの手法で語られることによって、それぞれの行為に経時的な裏付けがなされている。
 『ピアノ・レッスン』の構想についてカンピオンはこう語っている。
 「愛についての物語を創作したかったのです。それに私が大切にしているものを結び付けたかった … 十代の頃からずっと惹きつけられてきたジャンル、つまり十九世紀の女流作家たちの並外れた文芸作品と。今回のそれはエミリー・プロンテ。彼女は荒野という特異な風景の中から生まれてきましたが、それはニュージーランドに育った私にも通じるところがあると思います。でも、私は英国人ではなく、かつての植民地の人間。私が描いた世界は、ニュージーランドという国の形成当初の様相を理解しょうと努める中で愛について語るというものになりました」
 ヒロインのエイダは比類なき強い意志を持った女性である。この意志はエイダを他人の意向に左右されない独立した女性 − 「時代にそぐわない女性」にしている一方、彼女自身を「自分の意志が怖い。それが何をしでかすか怖い。私の意志はあまりにも奇妙で、そして強靱だ」と恐れさせる。 
 このキャラクターは、『嵐が丘』の善悪を超越した情熱の持ち主、ヒースタリフやキャサリンを思い起こさせる。『嵐が丘』との共通点についてカンピオンは「(現代が失ってしまった)過酷で過激なロマン」を挙げ、「環代に生きる私にはエロティシズムそのものがもつカをもっと大胆に描いて、そこから新たな次元を展開することが可能であると思った」と語っている。
 確かに『ピアノ・レッスン』は、十九世紀中葉のある女性の生さざまを二十世紀未に生きる女性の目で描いた物語である。諸々に散りばめられた当時の女性の服装に関するシンポリズム − 堅固な穀のような強ばった服、ヨーロッパで流行っている束縛具、非実用的な靴など − を通して、我々は当時の女性の肉体的な抑圧状態を経験する。そして、男としての見栄を捨てた弱い存在を見せる男たちも、女性ならではの描き方で表現されている。結末は当初の考えを大きく変更して、破滅に魅了されていたヒロインに生きる意志を持たせることにしたという。  ・・・・・・

 (訳者あとがき)

■著者について
Jane Campion (1955-)  
映画監督、作家。1955年生まれニュージーランド生まれ。ヴィクトリア大学人類学科卒業。ロンドンのチェルシー・スクール・オブ・アーツ、オーストラリアのフィルム&テレビスクールに学ぶ。1986年短編映画「ピール」でカンヌ映画祭の短編映画部門グランプリを受賞。1989年初の長編映画『スウィーティー』でジョルジュ・サドゥール賞最優秀外国映画賞を受賞。「ピアノ・レッスン」は1993年の作品で、カンヌ映画祭のパルムドール大賞、アカデミー賞のほか多数を受賞している。

Kate Pullinger (1961-)
1961年カナダ生まれの作家。1982年にロンドンに移住。著書に『小さな嘘』『モンスターが死ぬとき』『キスの終わりはどこ』などがある。

中里京子 (なかざと・きょうこ)
翻訳家。早稲田大学教育学部卒業。主な訳書に『小さな赤ちゃん』『乳幼児突然死症候群』などがある。
 


書評・その他
 
「ニュージーランドの美しい自然や、マイケル・ナイマンの抒情的な音楽がすばらしかった。ストーリーもたしかに感動的ではあったけど、登場人物の心の動きがわからなくて、イマイチ話にのれない人もいたのではないだろうか。
 
本書は、この映画の監督自身によるノベライズ作品。小説だから、もちろん心理描写は多いし、主人公エイダをはじめとする人物たちの過去の事情も明らかにされているので、「ピアノ・レッスン」の奥深い魅力をあらためて実感できる。読んでから映画を見直せば、まったく新しい物語に感じられるかも。」(Hanako No 358)