書名 精神医学の構造力動的基礎
副題  Strukturdynamische Grundlagen der Psychiatrie
著者 ヴェルナー・ヤンツァーリク
訳者 岩井一正/古城慶子/西谷勝冶

生物学的還元主義からも哲学的・人間学的精神医学からも一定の距離を保ちつつ、精神病理学の「第三の道」とも評される大規模な試論を提示。難解といわれる著者の思想が明快に体系化された好著。

1996. 3   学樹書院

ISBN4-906502-06-7 C3047

A5判上製/500頁/税込定価¥6825(本体¥6500)

  目次 本書について 著者について 書評・その他

目 次 

 日本語版への序
1 時代にふさわしからぬ試みへの序
2 全体論的精神病理学への道
3 構造力動試論
4 精神病理学総論および臨床精神病理学のための素材
5 本態性精神症候群の構築の原理
 あとがき/索引/文献


本書について(カバー宣伝文)
 著者はヤスパース、シュナイダーの流れを汲む元ハイデルベルク大学の精神科医として、また今日の精神病理学会の重鎮的存在として知られる人物である。本書は精神病理学における臨床的な疑問に対して、ヤスパースやシュナイダーの記述精神病理学からは満足のゆく解答を得られなかったという著者が、30年以上にわたり取り組んできた独自の探求の大いなる成果といえよう。すなわち、人間精神の全体論的把握を目指す著者は、昨今の生物学的還元主義からも、哲学的・人間学的精神医学からも一定の距離を保ちつつ、精神病理学の第3の道を開拓するための「構造力動論」の壮大なる試論を本書において提言する。ロマン主義精神医学に由来する「力動」の概念、心的拡がりを把握するための構造の概念。この両概念の相互連関を追及することによってはじめて、「心的場」における全体としての精神の機能が理解され、心身の概念は比類のない深化を達成することができる。本書には、構造力動論の成立過程をも含めて、その理論展開のエッセンスが清澄な記述で凝縮されており、読者はあらためて著者の圧倒的な炯眼に瞠目するに違いない。
 著者の思想は従来とかく難解とみなされがちであったが、円熟をきわめた一つの理論体系として完成された本書には、難解さよりもむしろ理路整然とした明快さが前景に現れている。21世紀の精神病理学の一つの可能性を暗示する示唆に富む名著といえよう。

■著者/訳者について
ヴェルナー・ヤンツァーリク (Werner Janzarik, 1920-)  1920年ツヴァイブリュッケンに生まれる。ヴュルツプルク大学とマールプルク大学に学び,1946年から51年までハイデルベルク大学でクルト・シュナイダーの助手を務める。その後マインツ大学精神科医長,司法精神医学部門主任を経て,1973年ハイデルベルク大学に戻り,1988年まで同大学精神医学教室教授を務める。邦訳された著書にSchzophrene Veraeufe,1968(邦訳「分裂病の経過」藤森英之訳,みすず書房)がある。
岩井一正 (いわい・かずまさ) 1948年生まれ。東京医科歯科大学医学部卒。1979年-1981年ドイツ学術交流会(DAAD)奨学生としてハイデルベルク大学精神科に留学。東京女子医科大学精神医学教室助教授、教授を経て、現在、秦野厚生病院病院長。主な研究方向は内因性精神病の長期経過研究。主な論文:「トントン拍子体験と既定妄想」,「内因性精神病の経過力動1−3」,「非定型精神病/精神分裂病との関係を中心に」(中山書店,分担執筆)。
古城慶子 (こじょう・けいこ) 1950年生まれ。東京女子医科大学卒。1988年−1990年ハイデルベルク大学精神科に留学。現在,東京女子医科大学精神医学教室講師。主な研究方向は精神病理学,特に妄想主題と人格との連関研究。
西谷勝治 (にしたに・かつじ)  1961年生まれ。熊本大学医学部卒。1993年一1995年アーヘン工科大学医学部精神科留学。現在,東京女子医科大学精神医学教室助手。専攻は臨床精神医学 精神病理学。


書評・その他