精神病理の形而上学 [2018年7月刊行]
ピーター・ザッカ― Peter Zachar:A Metaphysics of Psychopathology
植野仙経、深尾憲二朗、村井俊哉、山岸洋 訳
[四六判/並製/約356頁/定価(本体4000円+税)/ISBN 978-4906502-43-1]
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精神医学において、ある疾患の実在性が問われるときに、その問いそのものの正統性が問われることはほとんどない。心理学において一般知能や超自我、パーソナリティ特性といった理論的対象の実在性が論じられる場合も同様である。いずれの分野においても実在(リアル)という哲学的な抽象概念の意味が問われることはほとんどなかった。その一方で、いくつかの精神科疾患の位置づけは実在から虚構へと、あるいは虚構から実在へと実際に変化してきた。前者の例としては多重人格障害が、後者の例としては外傷後ストレス障害が挙げられるだろう。著者は本書において、実在(リアル)や実在性(リアリティ)といった言葉を哲学的な抽象概念として考察する。こういった概念は精神医学において引き合いに出される一方、しばしば曖昧に、具体性を捨象して用いられてきたのである。そのうえで著者は、精神科疾患の分類および精神病理現象を考えるうえでの自らのアプローチの意義を検討する。
著者は自らのアプローチを科学に触発されたプラグマティズムと呼ぶ。この見解を提示するなかで、著者は本質主義的バイアスや診断についての直解主義、自然種および社会的構成といった概念について考察する。それから精神医学的なトピックを論じるにあたって、著者は不完全共同体モデルを提案する。この新たなモデルは、ある状態が精神科疾患の領域に含まれるか否かということを、相対主義と本質主義との双方を回避しつつ考えるためのものである。近年の精神医学においては、DSM-5から自己愛性パーソナリティ障害という疾病概念を消去すべきか否かといった議論があった。著者は不完全共同体モデルという自らのモデルを用いてこうした議論の整理を試みる。そのうえで実在、真理、客観などの概念に立ち戻り、これらの形而上学的概念を他の概念について哲学的に考えるために用いるだけでなく、これらの概念そのものについても哲学的に考えてゆくべきだと主張する。
●著者について(About the Author)
Peter Zachar, Ph.D.
Department of Psychology, Auburn University Montgomery, Associate Dean of Arts & Sciences
Curriculum Vitae
An Interview
§ 関連情報(エッセイ)
村井俊哉 「難解な精神医学書を読む」歓び
植野仙経 『精神病理の形而上学』へのいざない
深尾憲二朗 精神医学の哲学と精神病理学
山岸 洋 かろやかに読んでみよう
【目次】
第1章 はじめに:サイエンス・ウォーズ、精神医学、実在論の問題
第2章 科学に触発されたプラグマティズム
第3章 道具的唯名論
第4章 心理学的本質主義と科学的本質主義
第5章 場違いな直解主義
第6章 直解主義と権威への不信
第7章 客観性は、経験の外部ではなく、経験の内部にある
第8章 精神科疾患の分類と概念
第9章 四つの概念的抽象化:自然種、歴史的概念、規範的概念、実践種
第10章 悲嘆は本当に疾患なのか?
第11章 自己愛性パーソナリティ障害は実在するか
第12章 精神医学、進歩、形而上学
[四六判/並製/約356頁/定価(本体4000円+税)/ISBN 978-4906502-43-1]